「見た目」をつくる仕事じゃない。
企業の根源的な価値を探る
旅のようなもの。
鬼頭さんは、いつからブランディングに興味があったんですか?デザイナーの仕事とはまた少し違う領域なのかなと思っていたのですが…。
いえ、僕の中では昔からデザインとブランディングは地続きだったんです。学生時代に見ていた第一線で活躍するデザイナーたちは、当たり前にブランディングを手がけていました。見た目を整えるだけでなく、お客様の課題解決やそのプロセス全体に関わるのがデザイナーの仕事なのだと、自然に感じていたんです。
なるほど。だからリーピーのブランディングも、単に見た目を作るだけではないんですね。
そうですね。よくある「ロゴを作って終わり」というものとは全く違います。私たちがやっているのは、お客様自身も気づいていないかもしれない、企業の根本的な価値や想い…いわば「本質」を探し出し、その輪郭を言葉やビジュアルで描き出していく。企業の健康診断のように、内側から見つめ直すプロセスだと考えています。
まさに。だからこそ、最初のインタビューがすべてを決めると言っても過言ではありませんよね。お客様が用意した言葉の裏にある、ポロッとこぼれた本音や、ふとした瞬間の熱量。それらを拾い集めるところから、私たちの仕事は始まりますよね。
その「核となる想い」は、社員の皆さんの心に火を灯すインナーブランディングと、お客様や社会にその光を届けるアウターブランディング、両方の基盤になります。見た目だけを整えても、中にいる人が変わらなければ意味がないですからね。
徹底的に調べ、「なぜ」を問い、
構造化する。
見えない価値を引き出す、
それぞれの武器。
その「本質」を見つけるために、鬼頭さんはどんなアプローチをされていますか?
私はデザイナーらしく、対話の中で思考を構造化することを意識しています。お客様の複数の発言をつなげて、「それって、さっきおっしゃっていたことと根本は同じですよね?」と図解しながら整理していくんです。思考の地図を描いていく感覚に近いですね。そうすることで、ご本人も気づいていなかった思考の核が浮かび上がってきます。
なるほど。私は、情報の裏に隠されたブランドの「原動力」を探し出すことを徹底しています。単に事実(What)を聞くのではなく、「なぜ(Why)その事業を始めたのか」「何が彼らを突き動かしているのか」という問いを、何度も繰り返すんです。
「Whyの連鎖質問」ですね。思考の深層に潜っていくような。
はい。そうすることで表面的な回答の裏にある、創業者の方の原体験や譲れない信念のようなものにたどり着ける。それが企業の本当の「原石」だと考えています。時には「あなたの会社は〇〇ではない、ということですか?」と反対の意見をお聞きして、ブランドが立つ独自の境界線はここなんだ!と明確にすることもあります。
私が意識しているのは「思いやりを持って、疑う」ことです。お客様が最初に語る言葉は、往々にして「きれいにまとまった言葉」であることが多い。例えば、「誠実さ」や「お客様第一」といった言葉ですね。もちろんそれは真実なのですが、その言葉だけを鵜呑みにしてしまうと、デザインもどこかで見たような、当たり障りのない表現に着地してしまいます。
まさに。だから私は、「本当にそうだろうか?」と問いを重ね、その言葉の解像度を極限まで上げていくんです。「あなたの会社の『誠実さ』とは、具体的にどんな行動に現れますか?」「無口で朴訥とした誠実さですか?それとも、情熱的で人間味あふれる誠実さですか?」と。そのわずかなニュアンスの違いこそが、その企業だけの「らしさ」であり、デザインの方向性を決定づける重要な手がかりになります。
なるほど。そのニュアンスが、デザインのトーン&マナーに繋がっていくんですね。
はい。朴訥とした誠実さなら、飾り気のない明朝体のフォントや、彩度を抑えた色使いが相応しいかもしれない。人間味あふれる誠実さなら、手書き感のあるロゴタイプや、温かみのある写真が合うかもしれない。そうやって、企業の表面的な言葉の裏にある、ユニークで人間的な「手触り」を見つけ出すこと。それこそが、心に響くビジュアルを生み出すための、最も大切なアプローチだと考えています。
バラバラだった想いが、
ひとつの「声」と
「進むべき道」になる瞬間。
そうやって深掘りした先に、コンセプトの言語化がありますよね。その工程が一番おもしろいプロセスだと感じます。お客様の曖昧で、もやもやしていた想いが、対話を通じて固まっていく。そして、バラバラに見えた一つひとつの事柄が、ある瞬間、一本の筋が通ってすべてが繋がる。この「点が線になる」感覚は、まさにクリエイターとしての喜びですね。
私は正直、まだ「産みの苦しみ」の方が大きいかもしれません(笑)。ご提案日まではお風呂に入っている時も表現を考えていて、本当に苦しいです。でも、練りに練ったコンセプトをお客様に提案して、「やっと一本の筋が見えました」と言っていただけた時、心から「ほっとする」。そういえば、この座談会の前日も鬼頭さんとご提案して、一緒にその感情を味わいましたよね(笑)。あの瞬間に、すべての苦しみが報われた!って思いました。
そうでしたね。一本の筋となるコンセプトが見つかったら、竹尾さんは次にどう表現に活かしていくんですか?
次に、どんな「声」で届けるかを設計します。それが「ブランド・トーン&マナー」の定義ですね。「このブランドがもし人間だったら?」という視点で、書き手のペルソナを細かく設定するんです。年齢や性格、口調まで。いわばブランドの声の設計図を描くような作業です。
なるほど。ペルソナが明確だと、表現に一貫性が生まれますね。
はい。さらに「使わない言葉」をリスト化することも重要です。「お客様」ではなく「パートナー」と呼ぶ、とか。「やらないこと」を決めることで、そのブランドならではの「らしさ」が際立ってくるんです。
コンセプトをVI(ビジュアル・アイデンティティ)に
昇華させる。
ライターが言葉で「声」を設計するように、デザイナーはコンセプトという「骨格」に、ビジュアルという「表情」を与えていきます。ここで重要なのがVI(ビジュアル・アイデンティティ)の設計です。「誰に、何を、どう感じてほしいか」を突き詰め、ロゴの形、コーポレートカラー、写真のトーン&マナーまで、一貫した世界観を構築していきます。
デザイナーの力は本当にすごいと思います。私たちが言語化したコンセプトを、皆さんは想像をはるかに超えるビジュアルで増幅させてくださいますから。ある運送会社さんの「安心を届ける」というコンセプトから、デザイナーの方が地域に光を灯すような温かい世界観をWebサイトで表現された時は、鳥肌が立ちました。
コンセプトという「揺るぎない軸」があるからこそ、デザインもブレなくなるんです。Webサイトだけでなく、MVVをはじめ名刺や封筒、オフィス空間まで、お客様がブランドに触れるすべてのタッチポイントで一貫した体験を設計する。それがブランドの信頼に繋がっていきます。
まさにブランド体験(BX)ですね。言葉とビジュアルが一体になって初めて、強いブランドが生まれるのだと実感します。
私たちの仕事は、
社員の心に「共通の誇り」を掲げること。
私が作りたいのは、単なるキャッチコピーではなく、社内の人々を一つにし、変革を後押しする力強い共通言語なんです。社長だけでなく、アルバイトのスタッフさんまで、その言葉を胸に「自分たちの会社は、社会に対してこういう価値を提供しているんだ」と誇りを持てるようになる。その状態を目指しています。
まさにインナーブランディングの核心ですね。働く人が変わらないと、ブランディングは本当の意味で成立しません。ブランドの持続可能性にも直結する、非常に重要な視点だと思います。
はい。人は論理だけでは動きません。感情を動かす「物語」があってこそ、共感が生まれ、行動に繋がる。その物語を紡ぐのが、私たちの役割だと考えています。
アートディレクターの仕事も、単に美しいアウトプットを作ることではありません。竹尾さんが言語化したその想いが、社員の皆さんにとっての「自分たちの旗印」として機能するかどうか。その視点が何よりも重要です。
ええ。例えば、私たちが導き出したブランディングによってデザインしたWebサイトが完成した時、社員の方が自分ごととして感じられ前向きに働いていけるか。新しいブランドカラーで彩られたオフィスで働く時、自分の仕事に誇りをもったり、気分が高揚するか。一人ひとりの社員にいかに浸透していくかを常に想像しながら、デザインに落とし込んでいます。良いデザインには、人の意識や行動を変える力がありますから。
ええ。例えば、私たちが導き出したブランディングによってデザインしたWebサイトが完成した時、社員の方が自分ごととして感じられ前向きに働いていけるか。新しいブランドカラーで彩られたオフィスで働く時、自分の仕事に誇りをもったり、気分が高揚するか。一人ひとりの社員にいかに浸透していくかを常に想像しながら、デザインに落とし込んでいます。良いデザインには、人の意識や行動を変える力がありますから。
その通りです。新しいブランドコンセプトを体現した名刺を持つだけで、お客様への話し方が自然と変わっていく。私たちは、そんな「企業の文化そのものをデザインする」ことに関わっているんです。だから、ブランディングの本当の成功は、MVVの作成やWebサイトを納品した瞬間にはわかりません。その1年後、社員の皆さんのふとした言動や表情に、私たちが一緒に見つけ出した企業やブランドの「らしさ」が宿っている。それを見届けられた時、心から「この仕事をしてよかった」と思えるんです。私たちは、企業の未来の「空気感」をデザインしているのかもしれませんね。
おぉ、さらにブランディングという仕事がおもしろく感じられますね。この仕事をしていると、地方に本当におもしろい会社がたくさんあることを発見できます。さまざまな想いを持って働く人たちと最初に関われることは、自分自身の活力にもなります。
そうですね。リーピーのミッションである「地方をおもしろくする」ことを、まさに最前線で体現できる仕事だと感じています。